伯爵夫人の遺書
 私の人生は不幸の連続でした。

 生まれた時からして、私は望まれない子供でしたから。

 私は男爵である父と、父が資金援助していたお気に入りの舞台女優である母との間にできた子供でした。私が十歳になる頃にその母が亡くなったため、父は仕方なしに私を引き取ることにしました。

 家族の中で、私だけが夫人と血が繋がっていませんでした。

 妾との間にできた平民上がりの子供なんて、認めてもらえるはずがありません。夫人も兄弟たちも皆私を憎んで虐げ、父はそれを見て見ぬふりしました。


 十六歳になる頃には、私はすっかり元気をなくし、年相応の無邪気さのない、憂鬱そうな少女に成長していました。

 しかし、そんな私にもひとつだけ武器がありました。母譲りの美しい外見です。

 子供の頃は貴族の子らしくない薄汚い子供だと散々馬鹿にされてきたのに、年ごろになると周りの男性の私を見る目がすっかり変わりました。

 皆私を見かけるとしきりに声をかけ、困っている素振りを見せれば競うように手を貸し、私の興味を引こうと数多の贈り物をしてくるのです。

 私を虐げてきた姉や妹を、そんな風にちやほや扱う者はいません。苛立たし気に私を見る彼女たちを見て、気が晴れなかったと言えば嘘になります。
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