伯爵夫人の遺書
 しかし、その唯一の武器は私に幸運をもたらすことはありませんでした。

 成長した私の外見を見て政略結婚に使えると考えた父が、エドモンズ伯爵家の長男に嫁がせることに決めたのです。

 エドモンズ伯爵家のブレント様は、大変優秀で美しく、評判の良い方でした。

 婚約が決まったとき、私は十七歳で、彼は二十歳。正直に言うと、父が私の相手にこんなに評判のよく、年齢もちょうどいい方を選んでくれるとは思っていませんでした。

 父が私の政略結婚の相手を探し始めた時から、うんと年上の方に嫁がされることも、周りからの評判が悪く嫁の来手のない方に嫁がされることも覚悟していましたから。

 こんなに条件の良い相手ならば、未だ嫁ぎ先の決まっていない姉や、私と一つしか年の変わらない妹の相手にすればいいのではないかと、不思議に思いました。


 嫁いだ後になって知ったことですが、ブレント様は夜会で一目見て私を気に入り、父にぜひ私を娶りたいと頼み込んだそうです。伯爵家と縁ができるとあっては、父も断るわけにはいきません。

 私は、父がきっと内心では可愛がっている正妻との間の娘ではなく、私が選ばれたことをいまいましく思いながらも、ブレント様の頼みを受け入れたのだろうと、笑いだしたい気持ちになりました。


 しかし、真実はそうではなかったのです。父が大事な娘たちのほうをブレント様に嫁がせるはずはありませんでした。

 ブレント様との結婚は、私の人生にこれまで以上の苦痛をもたらすことになります。
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