伯爵夫人の遺書
「リサ様、お客様がいらしています」

「は、はぁい。すぐ行きます!」

 すっかり遺書に集中しきっていた私は、扉の外から聞こえて来たメイドの声にびくりと肩を震わせた。動揺を隠しながら慌てて返事をする。

 この遺書の内容は本当なのだろうか。これが前の奥様……エリザベス様の人生?

 奥様は美しい方だったと聞いた。美しく、気立てが良く、周りから愛されていた人だと。そして、ブレント様の愛情を一身に受けていた人だと。

 それが、こんなにつらい人生を送って来た方だったなんて。

 家族からの扱いも気になるが、問題は最後の文章だ。

 ブレント様との結婚が苦痛をもたらした……。一体、彼女はどんな目に遭ったというのだろう。遺書の最初には虐待まがいの扱いを受けたということが匂わされていた。

 生家で辛い目に遭い、結婚してからも旦那様に虐げられるなんて、と見たこともないエリザベス様に同情心が湧いてくる。

 遺書の続きが気になって仕方がなかったが、お客様が来ているというのに部屋にこもって読んでいるわけにはいかず、後ろ髪を引かれながらも便箋をしまって客間へと向かった。


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