生徒会長さんの溺愛、とめられない。
何気ない幸せに浸っていると、先生がハッとした顔で私を見た。
「ああ! 忘れてた! あたしちょっと出掛けてくるから、誰か来たら受付よろしくね!」
「了解です!」
先生は耳に携帯電話をあてながら、急いで階段を上がっていった。
……いつもゆったりしている先生が小走りしているから、急ぎの用事なんだろう。
「……あいつ、やっとどっかいったか」
「………?」
「雪に、話があるんだが」
緊張しているのか、なかなか話を切り出せずにいる葉月先輩。
「その………もうすぐ夏休み……だろう?」
「……! はい……!」
もう、夏休みなんだ………!
「友達と遊びに行ったり、アルバイトをしたりするんですよね? 楽しみなんです!」
中学生までは、友達と遊びに行ったりすることはなかったから。
禁止されていたわけではなく、そのほうがお兄ちゃんが楽だろうと思ったから。
お兄ちゃんは「気にしないで、遊びにいけよ」と言ってくれたけれど、私が勝手に決めていただけだった。
「それで、今度俺とデー……」
「あー! 会長やっぱりここでサボってたんですねー!」
葉月先輩がなにか言おうとしたのを、聞き覚えのある明るい声が遮った。
「あれ、雪じゃん。なんで会長と……?」
「あ、翔平。実は……」
葉月先輩とお友達になったんだよ、と言おうとした私を、ものすごい怖い声が遮った。
「翔平……?」
まるで普段の葉月先輩とは思えないほどの怖い声に、思わず萎縮してしまった。
「はい? 何でしょうか会長?」
「いや、何でもない」
思いの外、普通に返事をした翔平に、これが普段の声なのかなと理解する。
私が怖がっているのに気づいたのか、葉月先輩は言葉を濁した。
「あー!そうだ雪! 7月25日と26日遊びに行かない?」
思い出したようにそう言って、デートだねと言って笑った翔平。
「あ、お試し期間……?」
私も思い出して、くすりと笑う。
「うん。そう、覚えてたんだ」
「翔平の真剣な気持ち、忘れるわけないよ」
私がそう言うと、翔平はすごく嬉しそうな顔をして、私もなんだか嬉しくなった。