シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
「こんなやつが住んでるんだよ。仕事も家でも親父と一緒っていうのは気まずいしもともと両親が離婚してから親父と一緒に住んだことなんてないからな」

「あ、そうだったね」

 すっかり頭から抜け落ちたてたけど、彼のご両親は彼が小学校高学年のときに離婚した。

 朝陽くんはお母さんに引き取られ引っ越しをしたので、それ以来私は会っていなかったのだ。

「苗字が変わるのが嫌だって言ったから、名前はずっとこのまんま。今となっては跡を継ぐことになったから、よかったのかもな」

 当時はきっと色々と大変だっただろうが、今は前向きにとられているようだ。

「いつものように検診に行ったあと、朝陽くんを探したけど引っ越ししたって言われて、すごく残念だったの思い出した」

 あのころ三カ月に一度の歯科検診で彼に会うのを楽しみにしていたのだ。

「俺も奈穂のことが心残りだった。色々約束していたのに果たせなかったから」

「覚えていてくれただけでありがたいよ」

 あのころ私は朝陽くんのことが大好きでしかたなかったけれど、小学校高学年の男の子にしてみれば煩わしくおもっていても仕方がない。

 それなのに私との思い出を大切にしてくれていたことがうれしい。

「今日はびっくりした。俺はひと目見て奈穂だって気がついたけど、奈穂は俺のこと全然きがつかないんだもんな。ショックだ」

「そ、それは歯が痛くて……それにこんなにカッコよくなっているなんて思わなかったから」

 そう確かに昔もかっこよかった。しかし今車を運転している彼はしっかり大人の色気をまとった男性だ。小学生の彼しか記憶に残っていないのだからわからなくても無理はない。
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