シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
 驚いたお母さんは、目を丸くしてこちらを見ている。

「実は私もここに通っていて治療してもらったんです。それよりも空くん、どうかしたんですか?」

 なんという偶然だろうか。空くんは私が勤める【さくら第三幼稚園】で私が受け持っている園児だ。

 話を聞くと家で遊んでいたときに、転んで口元をぶつけてしまったらしい。

「先生ぇ~」

 私に助けを求めるようにして手を伸ばしてきた。彼が今抱えている「痛いけれど、治療は怖い」という気持ちを先週の自分も抱えていたので、その場にしゃがんで彼を受け入れた。

 駆け寄って来た彼は、いつも園でするように迷いなく私の腕の中にやってきて私の首に手を回してぎゅっと抱き着ついてくる。

 きっとお母さんには赤ちゃんがいるから、遠慮したんだろうな。

 空くんは私から見てもとてもいい子で、十カ月ほど前に生まれた妹をとても大切に思っている。いつも私にうれしそうに妹をの話をするのだから間違いない。

 だからきっと我慢しちゃったんだろうな。

「痛いよ、先生」

「そうか、痛いね。よく頑張ってここまで来たね」

 私が声をかけると彼は、私に回した手にぎゅっと力を入れた。

「ちょっと先生に見せてもらえる?」

 私は空くんに声をかけながら、朝陽くんに目で合図を送った。きっと私と一緒なら口の中を見せてくれる。

「いいよ、触らないでね」

「うん、わかった。大きな〝あーん〟できる?」

 私の「あーん」の声とともに、空くんが大きく口を開けた。その隙に朝陽くんがさっと目で確認している。

「次は〝いー〟は?」

「できる」

 きっと痛いだろうに、涙をこらえて私の言葉に従っている。
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