シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
「それは仕方ないよ。今回は痛いのと怖いのとで空くんも興奮していたし。大人の私でさえスクラブ姿の朝陽くんをみたら緊張しちゃうし」

 それと同時にかっこいいなと思うことは、さすがに本人には言えない。

「それは早く慣れてくれ。もう少し待てるか?」

 彼がカウンターの中に入って、作業を始めながらそう言う。

「でも、迷惑じゃない? 今でさえずいぶん遅くなっているし」

 時計の針は九時半を指している。受付終了が六時だからかなりの残業だ。

「俺が奈穂ともう少し一緒にいたいんだ。少し片づけたら送っていくからそこで待っていて」

「わかった」

 私だってもう少し一緒にいたいと思っていた。だから彼にそんなふうに言われると断れるわけない。

 目を奪われるほどかっこよくそれでいて、治療も患者さんや従業員に対しても丁寧で、時々見せる昔と変わらない笑顔が素敵な彼。

 そんな彼に一緒にいたいなんて言われて、断れる人がこの世にいるのだろうか。

 自分に言い訳を繰り返しつつ、彼の仕事が終わるのを待合室のソファに座って待つ。その間受付や待合室をぐるりと見渡した。

 先週は痛みや治療への怖さからゆっくりと周囲を見る余裕などなく、終わったら終わったでほっとして周をみることもなかった。

 小さなころの記憶を手繰り寄せ、当時と違う点を見つけていく。少し前に改装をしたのか院内は白を基調にした清潔な印象で、受付カウンターには歯を模したぬいぐるみが置かれていた。

カウンセリングを行ったり、指導をしたりするブースがここから見える。歯の模型とはぶらしがあった。

「昔はこんな部屋なかったのになぁ。いつできたんだろう?」
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