シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
「ここは、改装するときに俺が無理を言って作ってもらった」

 答えが返ってくるとは思っていなかったので、驚きて肩がびくっとなった。

「朝陽くん!」

「悪い、驚かせたか?」

「ううん。大丈夫。片付けは終わった?」

「まぁ、だいたい。明日の朝、スタッフに怒られない程度には」

 肩をすくめる彼の姿に、私は頬を緩めた。

「食事がとれそうなら、一緒にどうかな?」

「行きたい!」

 私自身の治療は随分前に終わっている。口内に違和感もなく、食事は問題なくとれそうだ。

「よかった、実はもう予約してある」

「え、私が無理だって言ったらどうするつもりだったの?」

「ひとり寂しく飯を食うことになっただろうな」

 なんとなく想像してしまって、笑ってしまった。

「しかたないから、つき合ってあげるね」

 わざと高飛車に言うと、朝陽くんがおかしそうに笑う。

「ありがとう、優しいな奈穂は」

 彼は車のキーを手にして、私に外に出るように促した。


 車に乗ること三十分。

 朝陽くんが連れてきたのは、スタイリッシュな高級中華の店だった。雑誌に何度も掲載されているのを見ては「いつか来たいな」と思っていたところなので、思わず興奮してしまう。

「せっかくだから、もっとおしゃれしてきたかったな」

 仕事帰りなので仕方ないとは思いつつも残念だ。

「次くるときはおしゃれすればいいだろう」

 それはまた連れてきてくれるということだ。彼の言葉ひとつで私の心が浮上して笑顔になる。

 個室に案内されて、メニューを渡される。

 私は治療の後だし、朝陽くんは車を運転するのでふたりともウーロン茶で乾杯をした。
< 25 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop