シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
 忙しくても、歯の定期健診だけはきちんと時間を取るべきだった。いまさら後悔しても遅い。

 治療をしてもらえると思ったとたん安心して、ふといつもの先生じゃないことに気がついた。

 子供のころは通っていたけれど最近通っていなかったので不確かだが、ここの歯科医師である神河先生の年齢は六十歳手前のはず。

 今目の前にいるのは、どう見ても三十代前半にしか見えない。

 それに驚くほどかっこいい。身長は私よりも二十センチ以上高いだろうから百八十セント超えている。

 さらさらとした黒髪に、切れ長の目。高い鼻梁に形の良い少し口角の上がった唇。どのパーツも完璧。その上それらが絶妙なバランスで並んでおり、誰もが振り返りそうなほど整った顔立ちをしている。

「あの神河先生は?」

「俺ですけど」

 私の問診票を確認していた彼が私を見ながら不思議そうに見る。

「え、でもお歳が……」

「あぁ、親父のことか。今は週に一、二度診察にでているけれど、今は俺がここを引き継いでる。息子の神河朝陽(あさひ)です」

「え、もしかして……朝陽くん?」

「そうだ。やっと思い出したのか『泣き虫奈穂ちゃん』」

 私は驚いて目を見開いた。

 まさか、彼があの朝陽くんだなんて。

 私の記憶の中にいる彼を引っ張り出してこようとすると、受付カウンターの中から出てきた彼が私の前に立った。

「じゃあ、行こうか」

< 3 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop