シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
第二章
第二章
診察室へと歩き出した彼に次いで、私は右頬を押さえながら歩く。
治療、久しぶりだからドキドキするな。
昔から怖がりな自覚はある。そのうえ何よりも苦手なのが「歯医者さん」だった。定期健診は毎回やることが決まっているので、好きではないが虫歯にならないためだといわれて渋々従っていた。そのおかげで小さいころは虫歯はなかった。
わかっていたのにさぼっていたのが原因だとわかっている。
さっきまでは、この歯の痛みを取ってもらえるなら何でもするとすら思っていたのに、実際に診察台を前にすると、治療への不安がおしよせてきた。
「どうぞ、座って」
「あ、はい」
さすがにいい歳して、怖くて緊張しているとは言えない。なんとか平気なふりをして診察台に座る。
大丈夫……平気よ。治療しなきゃ痛みは治まらないんだから、きっとすぐに終わるわ。
自分で自分を励ます。
「椅子倒すから、背もたれに背中付けて」
「うん」
私が座り直すと、椅子がゆっくりと倒れていく。ぎゅっと握った拳の中に汗がじんわりとにじんだ。
天井が目に入った後、すぐに顔を覗き込まれた。
「あの、神河先生」
「朝陽でいいよ。知らない仲じゃないし」
「あ、じゃあ。朝陽くん。あの……痛くしない?」
治療するのが他の人なら我慢したかもしれない。しかし相手が自分の昔を知る朝陽くんなので気持ちが緩んでしまったのだろう。思わず弱気な言葉が出てしまう。
「あ~それは見てみないとわからない」
彼は片方だけ耳に駆けていたマスクをきっちりとつけて、手元のライトを手繰り寄せる。「そ、そこは『痛くしないから、安心して』って言ってよ」
焦って体を浮かせた私を、彼は手で元の位置に戻るように私の肩を優しく押した。逆らわずに従ったが不安を隠せずに彼を見る。