シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
 確かに素人が見てもわかる。

「仕事もあるだろうし、ある程度はいっきに治療する。いいな?」

 彼が私の口から手を離し、同意を求めるように聞いてきた。

 歯科治療はゆっくり少しずつ進めるところも多いと聞くのに、彼は今後のことを考慮してくれたようだ。

 ありがたいが、一気にと言われて耐えられるだろうかとドキドキしてしまう。

 私は決死の覚悟をして、うなずいた。いつまた痛み出すかわからないリスクを抱えるよりもきっちり治したい。

「わかった。気をつけるけど痛みは伴うから。我慢できなかったら言って」

「うん、わかった」

 何をどう言われても不安が消えずに、顔がこわばる。

「そんな顔するなよ。ほら、口開けて」

 元気づけるように明るくうながされた私は、再度口を大きく開けた。

 まな板の上の鯉状態だけど治療をするのが朝陽くんだと思うとどこかほっとする気持ちもある。

 目をつむっていても感じるほどの明るいライトの下で、朝陽くんによる私の歯科治療がはじまった。

「麻酔するから、痛かったり気分が悪かったらすぐに言うこと」

 口を開けているので、無言でうなずく。すると幹部近くにチクッチクッと小さい針で刺すような痛みが走る。

「平気か?」

 このくらいならば問題ない。患部の痛みに比べれば些細なものだ。

 私がうなずくと、彼が麻酔の効きを待って治療を始めた。

 最初は人に口の中を触られる違和感があったものの、麻酔の効果が出始めると、右頬が麻痺した感覚の中、耳にカチカチという器具やときおりドリルの音が届く。

 痛みはないのにそれだけでも体がこわばる。

「大丈夫か?」
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