シロツメクサの約束~恋の予感噛みしめて~
「ごめんね、迷惑をかけたうえに送ってもらうなんて」
「いや、ついでだし。それにこんな遅い時間にひとりで帰せないだろう」
「平気だよ。このくらいの時間」
腕時計を確認するとまもなく二十一時になるところだった。
「そうか、待たせて悪かった。行こうか」
歩き出した彼の手には、車のキーが握られていた。
裏口から出てセキュリティを操作している〝警備を開始します〟という音声が流れると彼が振り向いて一台の白い車を指さした。それと同時に車のキーロックを解除したのか、ランプが一度ピカッと光った。
「乗って」
先にドアのところに立った彼が、助手席のドアを開けた。私が乗りやすいように扉を押さえてくれている。
「ありがとう」
こんなに丁寧に扱われてドキドキしてしまう。少し挙動不審になりながら車に乗り込むと朝陽くんに笑われた気がした。
運転席に座った彼がエンジンをかけた。
「家は、昔のまま?」
「うん、まだ実家に住んでる」
「OK」
まだ私の家を覚えているのか、迷いなく車を走らせはじめた。しかしすぐに通行止めの看板と警察官の誘導灯が見えた。
「困ったな。遠回りになるけどいい?」
「うん、私はかまわないけど。朝陽くんは大丈夫なの?」
「俺は問題ない。明日は仕事?」
「ううん、お休み」
働いている親御さんのために土曜保育もやっているが、明日は登板ではないので休みだ。だが朝陽くんは明日も仕事のはず。
「朝陽くんこそ、面倒だよね。一度送ってからまた戻るの」
「あー、いや俺は実家じゃなくて駅前のマンションに住んでる。去年できたところ。わかるか?」
私は駅前の風景を思い出して、もしかしてと聞いてみた。
「あのタワーマンション? すごい、どんな人が住んでるんだろうって気になってたの」
駅前の再開発に伴い出来た新しいマンションだ。
噂によればかなりの値段がするはずだが、都内中心部へのアクセスもよくすぐに完売したと母が噂話を私に聞かせたのを思い出す。