私がこの世で一番大好きな人

「わかった。あなたがここから助け出してくれるまで、私待ってるね」

「うん、出来るだけ急ぐから。だからもう少しだけ待ってて」


 また彼が抱きしめてくる。
 本当に彼は私のことを抱きしめることが好きだ。

 まあ、私もこうして彼に抱きしめられるの好きだけど。

 しばらく抱き合っていると、彼が私の頭を撫でて離れる。
 彼はいつも帰る時にこうやって頭を撫でてくる。

 今日はもう帰るのかと思うと寂しく感じる。


「リーベそんな顔しないで。余計帰りたくなくなる」


 頭にあった手を頬に移動させて撫でてくる。
 心地よくて、その手に擦り寄る。


「……可愛いすぎる」


 もう一度私をぎゅっ、と一度強く抱きしめると離れていく。


「本当はまだ一緒にいたいけど、もう帰らないとあいつが帰ってくる。帰ってこなければいいのに」


 彼の言う通り帰ってこなからばいいのに。
 あの男が帰ってこなかったら彼は帰らない。

 それに何よりあの暴力を受けなくていい。
 あの暴力がないだけでどれだけ幸せだろう。


「また一日、二日空くと思うけど、また来るから」

「うん、待ってるね」


 彼はまた私の頭を撫でると部屋から出て行く。

 帰ってしまった。
 ああ、寂しい。
 早く一緒に暮らせるようになったらいいのに。
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