庇護欲強めの彼に守られ、愛されました
 見間違いだと思う。私の大嫌いな黒い生き物ではないはず。
 自分にそう言い聞かせたものの、内心では猛烈に嫌な予感がしている。
 もちろんこのままなかったことにするわけにはいかない。きちんと確認しなければ、今夜私は眠れなくなる。

 もしもこの部屋にアレがいるのなら、このあとは決戦が待っている。
 ひとつ大きく深呼吸をして覚悟を決めた。
 スマホをテーブルに置き、精神統一のためにいったん目を閉じて呼吸を整える。
 だけどそれがいけなかった。次に目を開けたとき、敵が私のつま先から三十センチほどの距離にいたのだ。

「キャ、キャア~~!! 嫌っ~~!!」

 気が動転してやみくもに逃げ出したせいで、身体が部屋の壁にドンッと勢いよく当たった。
 左肩を思いきり強打し、その場の床にずるずるとへたり込む。

「もう、ヤダ……」

 目にした敵はテカテカと黒光っていて、めちゃくちゃ大きく感じた。
 心臓が痛いくらいにバクバクと鼓動する中、だんだんと涙目になってくる。
 だけどまだ戦いは始まってもいない。気合を入れて挑まなければいけないのはこれからだ。

 部屋に常備してある専用の殺虫スプレーを握りしめた。
 これを使うのは今年になって初めてだなと、こんなことで季節の移り変わりを実感する。

 スプレー缶を持つ手が震え、胸のドキドキも未だに収まらなくて、なかなか戦闘モードに入れない。
 そんなとき、ピンポンとインターフォンのチャイムが鳴った。

 正直、今の私には対応している余裕はないのだけれど、とりあえずモニターで誰なのかを確認してみる。
 宅配便だったなら荷物を受け取らなきゃと思ったが、そこに映っていたのは隣の部屋に住んでいる男性だった。
 こちらの音が漏れ聞こえたのだろう。私が異常なほど大声を出したので驚かせてしまったのかもしれない。
 とにかく謝罪を済ませておこうと、力が抜けたままよろよろとしながら玄関扉を開けた。

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