推し一筋なので彼氏はいりません
《佐山暁良 side》
試合前、コート内から何気なく2階をみたときに、菅野さんがいるのが見えた。
いや、本当のことを言うとそんなに視力いいわけでもないから、菅野さんがいるのが分かったという表現の方が正しいかもしれない。
来てくれるとは思わなかったけど、一応誘ってみてよかった。
「佐山、誰見てんの?」
「んー。」
「噂の2年生の子?」
「まあ。」
「来てくれてるんだ?
やっぱ佐山モテるな〜。振られたって聞いた時は驚いたけど、向こうから告ってくるのも時間の問題じゃない?」
「いや、今のところその可能性は少しも無さそう。」
「え、なんで?」
「俺より魅力的な人がいるからなぁ、彼女には。」
「は?何、彼氏持ち?」
「そういうことじゃないけど。」
「よく分からんけど、佐山に好きな人できるとか初めてなんだし頑張れよ〜。」
「うん。」
別に“好きな人”というわけでもないけど。
ただあの揺るぎない愛を向けられてみたいだけ。
でも、俺に一切興味がない、ということに喜んでいる自分もいる。
だってそれだけ“遥斗くん”を一途に想ってるってことだから。
俺なんかには目もくれずに、遥斗くん遥斗くんって言ってて欲しい。
「試合始めるって。」
「あぁ。」
それから間もなくして試合が始まって、俺はそんなに時間も経たないうちに先制点を決めた。
特に意識もしてなかったけど、点を入れてすぐに菅野さんの方が気になって姿を探した。
こっちを見てない。誰かに声掛けてるのか。
試合もそこそこに、ずっとそちらが気にかかって度々横目に見てしまう。
あぁ、あの子は気分が悪いのかもしくは怪我か。
それを気にかけて声をかけていたということだったんだ。
よく周りを見てるんだな。