推し一筋なので彼氏はいりません



そう思っていたのが間違いだったのかもしれない。

“佐山くんから離れてください”

そんなメモ書きが私の下駄箱に入っていた。


学年とクラスと出席番号を組み合わせた4桁の数字しか書いていない下駄箱なのに、私のところだとわかって入れているあたりが怖い。

出席番号って私自分の番号の前後の人くらいしか知らないよ?

あ、けど私が下駄箱にいるのを直接見たら、どこを使ってるかなんてすぐわかる話か。


「まあいっか。」


離れろって言われても私から近づいてるわけでもなんでもないし、悩んでる時間が無駄。

今日はバイトある日だし早く帰らないと。



その後も、何度もメモ書きが入っていることがあった。

“佐山くんを唆さないで”

“佐山くんを弄ばないで”

“佐山くんを苦しめないで”

そういうひとことが書かれていた。


え〜、私が悪女みたいな言い方されてる。

告白はしっかりお断りしたし、弄んだりしてないけどなぁ。

先輩が私のところへ来るのを全力で拒否したりはさすがにできないから、それが悪いと言われればそれまでなんだけど。


「菅野さん、おはようございます。」


「おはようございます。」


こうやってあなたが来てるから私勘違いされてます。

でも別に実害ないから特別言う必要性も感じないというか。

ここで先輩に相談したら、多分先輩はよく気にかけてくれると思う。

けどそれだと先輩に好かれてるのを利用してるみたいで、なんか嫌だ。


メモ書き以上のことがあったらでいっか。


「菅野さんがこんなに俺の事見てくれるなんて珍しいですね。」


「もう1ヶ月くらいほぼ毎朝来てますが、いつまで来るつもりなのかな、と思って。」


「それは菅野さんが俺と付き合ってくれるまでですよ。」


「……冗談ですよね?」


「本気ですが。」


「だとしたら卒業までずっと来ないといけませんね。」


「確かに。付き合っても朝話したいですもんね。」


「いや違うけど。付き合わないし。」


そうだった、この人こういう人だった。

ポジティブおばけというか、ちょっとアホというか。


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