推し一筋なので彼氏はいりません



放課後。


「あ。」


全く見覚えのない女の子が、たまたま私の下駄箱にメモを入れようとしているところに出くわしてしまった。

彼女は私の声でこちらに気づき、そのまま走って向かってきた。


「えっ?」


と思った時には、彼女に突き飛ばされていた。

幸い尻もちをついたくらいだけど、お尻はしっかり痛い。


この時間、みんな部活に行ってこのあたりは今、私の彼女だけ。


怒っているように見える彼女と、お尻が痛いなと思っている私の間に少しの沈黙が流れる。



「なんで?何度も佐山くんから離れてってお願いしたのに。」


あれがお願い……だったかどうかは置いといて、私に怒られても困る。


「なんでと言われても私から寄っていってるわけじゃないですし。」


「なにそれ。自分が佐山くんに好かれてるからって偉そうに。」


「そういうわけでは……。」


「私なんか中学2年の時からずっと彼のことが好きなのに……!
彼がここの特進科を目指してるって聞いたから、苦手な勉強も頑張ってここに入ったし、バスケ部のマネージャーにもなった!なのに急に出てきたあなたなんかに。」


「わかります!ぽっと出のキャラがやたら可愛がられてると、その子は何もしてないしむしろ好きだとしても少し複雑というか。」


いやでも今の状況でいうと、彼女は別に私の事よく思ってるわけじゃないから、ちょっと状況が違うかな?


「何の話…?」


「あ、すみません、関係ない話を。
推しで例えたらいろんなことがよく分かるということを発見してから、度々推しで例えてしまうようになってしまって。」


「推し……?」


「はい。6年推してる推しが居まして、遥斗くんっていうんですけど、可愛いとかっこいいをどっちも持ち合わせてるもうそれはとても素敵な人なんです。」


「は……?」


「佐山先輩も素敵な人だとは思います。遥斗くんのことちゃんとみてくれるし。
けど、別に私は先輩に恋愛感情とかないので。本当に。」


「本当に?少しも好きじゃないですか?」


「はい、少しも。」


「……そうですか。」


「それだけ想ってるなら伝えた方がいいんじゃないですか?好きって伝えるのはいいことだと思いますよ。」


「けど振られるのが怖くて……。」


「確かに。その問題はありますね。」


向こうの気持ちを操ることは出来ないし、難しい問題だよね。


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