推し一筋なので彼氏はいりません
第二章
第一節
文化祭当日。
始まって早々に佐山先輩が私の教室まで来てくれるというので、大人しく待っているところ。
けどまあフォトスポットなんて最初から混むはずもないし、菜々春は私が先輩と回るのを見越して友達とどっか行ったし、教室にはほとんど人がおらず暇だ。
先輩に一言メッセージを送って、ちょっとそのへんうろうろしよう。
と思って廊下に出て間もなく、佐山先輩の姿を発見した。
あれ、誰かと一緒にいる?
どうやら女の人と一緒なようで、制服は着ていないから外部の人らしい。
誰だろう。可愛い人だなぁ。
ずいぶんと仲が良さそう。
先輩は基本的に誰にでも優しいけど、女の人に対する態度はどこか壁があるようで、優しさの中に冷たさを感じるものだった。
けど、今はそんな風にはみえなくて、いつもより砕けた接し方に見える。
なんだ、やっぱり本命がいたんだ。
そりゃそうか。
私みたいな普通の人間が、あんな人気者に想われるわけない。
気の所為かもしれないけど、なんか少しもやもやする。
先輩は私だけのはずなのに。
「あ、菅野さん。
今菅野さんの教室に向かってたとこだったんです。」
ふと先輩がこちらに気づいて、笑顔で近づいてくる。
「この子が暁良のお気に入り?
めっちゃ可愛いじゃん。お名前は?」
隣の女の人も一緒に近づいてきて、ニコッと微笑まれた。
「菅野愛衣です……。」
「こいつに名前なんて教えなくていいよ。
花純、菅野さんが可愛いのはすごくわかるけど早く離れて。」
「えー、なんで。私も仲良くしたい。」
「は?絶対ダメ。無理。帰れ。」
先輩って仲良い人の前でこんな感じなんだ。
名前呼びだしタメ口だし、ちょっと雑な口調。
「いいじゃん。ね?愛衣ちゃん。」
「俺も下の名前で呼んでないのに呼ぶな。まじ帰れ。」
「やだね。可愛い子見つけに来たんだもん。」
「そういうのは他のところで探して。」
「えー、いいじゃん。たまには若い子も見たいんだよ。」
「だからって菅野さんに近寄んな。
菅野さん、こいつ可愛い女の子なら見境ないから気をつけて。」
「えっ?」
「暁良が誰かに拘ってんの珍しいね。」
「うん、だから菅野さんは諦めて。そして帰って。」
「仕方ないなぁ。
さすがに人の好きな人狙う趣味はないんでね。」
「嘘つけ。」
「ほんとだよ?
まあうっかり好きになられることはあるけど。」
「……帰れ。」
「はいはーい。
ひと通り見て回って帰るわ。じゃあね〜。」
あっという間に花純と呼ばれたその人は去っていった。