推し一筋なので彼氏はいりません
《佐山暁良side》
「暁良?」
声をかけられてすぐわかった。
菅野さんといる時に会うなんて最悪だ。
「何でここに?」
「たまたま用事があって……。」
たまたまなんて言っているけど、どうせ男とデートしていたんだろう。
今更言い訳する意味もわからない。
「俺も大事な用事の最中なので邪魔しないでください。
行こう、菅野さん。」
立ち上がって背を向けると、その人に腕を掴まれる。
「待って。」
「何。」
「お父さんがどうしているか知らない?
私のこと何か言ってなかった?」
「知らない。離せよ。」
離婚して自由に男とは遊べるようになったけど、金がないから困ってるんだろう。
普段は俺に少しも興味を示さなかったくせに、偶然見かけたからって声掛けてくるなんておかしいと思った。
「あなたはお父さんに支援してもらってるんでしょう?連絡先くらい知ってるわよね?」
「菅野さんすみません。ちょっとあっちの方で待っててくれますか。」
「……はい。」
心配そうに言われた通りにする菅野さんを見送って、母親に向き直る。
「今までは同じ家にいても俺に声をかけるなんてことしなかったくせに、都合のいい時だけ使おうとしないでください。
俺は今、一秒も邪魔されたくない時間を過ごしてたっていうのに。
もう今後偶然見かけても話しかけないでください。
父さんの連絡先は知らないし、知ってても教えない。それじゃあ。」
まだ後ろでなんか言っていたけど、無理やり引き離して菅野さんの元へ向かう。
この辺りは人が少なめなせいで、菅野さんをチラチラ見ている男が数名いるのがわかって、急いで駆け寄る。
「すみません、お待たせしました。」
「いえ。大丈夫でしたか?」
「はい。せっかく楽しかったのに台無しにして申し訳ないです。」
「あそこのクレープ奢ってくれたら許します。
さっきから何人も食べてる人をみかけて、食べたくなってたんです。」
そういって、食べたいんです!って顔でクレープ屋と俺の顔を交互に見る。
あー、なんて可愛い生き物なんだろう。
「もちろんいいですよ。行きましょう。」
本当に、この人の笑顔をみるだけで、あのやりとりのせいで胸に渦巻いた怒りとか不快感とかそういうものが全部浄化される。
特に何も聞かずにクレープの話に持ってくのが、たまたまか狙ってかわからないけど、そういうところも好きだなと思う。