推し一筋なので彼氏はいりません
《菅野愛衣side》
戻ってきた時は暗い顔をしていたのに、もういつものニコニコの先輩に戻っている。
あまり聞かれたくなさそうな話だろうから聞かないけど、やっぱりちょっとは気になる……。
「どのクレープにしますか?」
「んー、いちごとチョコバナナで悩んでます。」
「じゃあふたつ頼みましょう。
食べれない分食べますよ。」
「いやいや、いいですよ。」
「ほら、お詫びですし。ね?」
「ありがとうございます。」
こんな優しい人が、見たこともない顔で、声色で、口調で話していた。
何度か助けに入ってくれた時もあったけど、そのときは先輩のことを怖いと思うことはなかった。
でもさっきの先輩は少し怖くて、それだけ嫌な人だったのかなとは思う。
「はい、どうぞ。」
「やった。ありがとうございます。」
「いえいえ。俺はその可愛さに癒されてるので、むしろプラスですよ。」
「えぇ、なんですか、それ。」
「ありがとうございます。好きです。」
その“好き”がいつもより切実に思えて、ドキッとしてしまう。
それをクレープを食べて誤魔化した。
「先輩もどうぞ。」
「もういいんですか?」
「だって、夜ごはん入らなくなる……。」
「ははっ、菅野さんはほんと可愛いですね。
じゃあいただきます。」