推し一筋なので彼氏はいりません
やっと放課後になった。
先輩は校門で待ってくれているらしく、一日中待たせているんだからと、気持ち急ぐ。
けど校門前に立っている先輩は、まさかの女子たちに囲まれていて、全然話しかけられそうもない。
しばらく遠目で観察していると、先輩がこちらに気づいて私に近づいてくる。
「声掛けてくれてよかったのに。」
「でもみんな先輩と話したいかなって思って。
もうすぐ卒業だし今も自由登校だから、先輩が来てる今日がチャンスじゃないですか。」
「俺は自由登校でも菅野さんに会うために毎日来ますよ?」
「わざわざその為だけに……。」
「それこそ今がチャンスなんですよ。
卒業したら会う約束しないと会えないし、毎日アピールしたくてもできないし。」
「言われてみればそうですね。」
「そろそろ好きになってくれてもいいんですよ?」
「んー、考えておきます。」
「え!否定しなかったの初めてじゃないですか!?」
「そうでしたっけ。」
「そうですよ!
これは可能性ありってことですかね。」
そりゃあ最初の頃よりは、先輩という人を好きになってはいるけど。
「さあ。
それよりドーナツ行きましょう、ドーナツ。」
「はい、行きましょう。
駅前の方のですか?」
「そうです、そっち。」
お店に行くまでの道のりで、同じ制服の人と何人もすれ違った。
その中の女の子2人組が、私たちの話をしているのが聞こえる。
「あ、あれ佐山先輩と噂の菅野先輩じゃない?」
「ほんとだ〜。菅野先輩すごく愛されてていいよね、羨ましい。」
「わかる!佐山先輩みたいな彼氏欲しいよねぇ。」
私のことも先輩と呼んでいるし、おそらく1年生の子たちだろう。
そんなふうに思ってる人もいるんだ。
佐山先輩好きなのに!菅野邪魔!って思ってる人ばっかりかと思っちゃってた。
そんなわけないか。
「俺たちの話してますね。
佐山先輩みたいな彼氏が欲しいって。」
「みたいですね。」
「菅野さんもそう思ってくれたら嬉しいんですけどね。」
「そうですね。」
「相変わらずの塩対応。
さっきはちょっと可能性感じたのに。」
「頻繁にアプローチし過ぎなんじゃないですか?」
「それくらいしないと菅野さんの視界にすら入れない気がして。」
「そんな事ないですけど。」
「じゃあ俺から近づくのやめたとして、菅野さんから来てくれます?」
「……。」
「でしょうね。
だからこれくらいが丁度いいんですよ、きっと。」