推し一筋なので彼氏はいりません
《佐山暁良side》
大学が始まって1週間ほど経ち、大学というものにもそこそこ慣れてきた。
そうすると心に余裕が出てきて、この学校に菅野さんがいないという現実が辛くなってきた。
高校なら毎朝会えていたのに。
そろそろ会いたい。
“講義終わるの17時頃になるんですが、今日会えませんか?”
菅野さんにメッセージを送ると同時くらいに教授が入ってきて、講義が始まった。
少しして、スマホが震える。
普段は特に気にしないのに菅野さんかもしれないと、画面を確認した。
案の定菅野さんからの返信。
“今日進路相談の日で早く帰れるので、17時頃に先輩の大学の最寄りで待ってます。”
そんな文面を見るだけで顔が綻んでしまう。
早く帰りたい。早く講義終われ。
「佐山くん、この後よかったら──」
「ごめん、急いでるから。」
講義が終わると同時に荷物を纏めて走る。
途中で何度か声をかけられたのを断って、急いで駅に向かう。
「菅野さんっ。」
少し遠目に姿が見えて大きめの声を出してしまったせいで、周りの人にちらちらと見られる。
けどそんなのはどうでもよくて、こっちに気づいた菅野さんに駆け寄る。
「会いたかったです。」
「私もですけど、そんなに急がなくても良かったのでは……。大丈夫ですか?」
「大丈夫です。
あー、本物の菅野さんだ。可愛い。好きです。」
「偽物の私がいるんですか?」
ほんとはちょっと照れてるくせに(暁良の予想)、可愛いとか好きを普通に無視してくるあたりがまた可愛い。
「偽物というか、脳みその中の菅野さんと毎朝話していたので、本物だ!ってなったっていうか。」
「そうなんですね。
ところでどこ行くんですか?」
「何も考えてないです。
ただ会いたいと思って連絡したので。」
「じゃあひとまずその辺ぶらぶらしましょうか。」
「はい。
あの、手を繋いでもいいですか?嫌ですか?」
「いいですよ。」
そういって差し出される菅野さんの手を握ったときだった。