推し一筋なので彼氏はいりません
それから先輩は数日後に約束のタルトを手土産にうちにきて、母親に、
“受験勉強のためにうちに出入りすることがあると思うけど、菅野さんに手は出さないし帰りはちゃんと家まで送り届けるので、安心してほしい”
と言う旨をわざわざ伝えに来た。
案の定、母親は二つ返事で了承して、その日は父親が帰ってくるのを待って4人で夕食をとった。
先輩がお父さんに会うのは初めてだったけど、お父さんウケも良くて、終始楽しい雰囲気でご飯を食べた。
その日から1ヶ月くらい経ち、今ではほとんどの週末を先輩の家で過ごしていた。
「菅野さんちょっと出てきますね。
友達がうち向かってるって言うから阻止してきます。」
「え、いいですよ、呼んで。そういうことなら私はお暇しますし。」
「それは嫌です。せっかくの菅野さんとの休日を邪魔されたくない。」
「じゃあ私があっちで勉強するというのは?」
いつもは部屋の中央にあるローテーブルを使っているけど、部屋の隅のデスクの方を指差して聞いてみる。
「そもそも菅野さんと会わせるのが嫌です。可愛すぎて好きになられたら困ります。」
「いやいや、先輩は私を過大評価しすぎなんですよ。」
「いーや、世界一可愛いです。あれ、けど2番目いないから世界一って言い方もおかしいか。」
先輩と言い合ってる間にインターフォンがなる。
「来るの早。」
先輩はインターフォン越しに帰れと言っていたけど、全く帰る様子はなく渋々家にあげたようだった。
「今日は無理って言っただろ。来んなよ。」
「だってひとりじゃ全然課題進まないし。って、あちらが噂の彼女さん?」
「見んな。」
「なんで、いいじゃん。
彼女さんこんにちは!暁良の友達の相田優でーす。」
「あ、どうも。菅野愛衣です。」
「この子の邪魔すんな。てか話掛けんな。さっさとやって早く帰れ。」
「はいはい。
ほんとに大好きなんだなー、彼女さんのこと。」
「当たり前。」
さっきから噂とか、ほんとにとか、普段先輩は私のことをどういうふうに話しているんだろうか。
「あ、ちなみに暁良と俺同じサークルなんだけど、サークルの自己紹介で彼女自慢して、暁良狙いの子の心折ってたんだよ。」
「早く気づかせてあげた方が良いじゃん。
てか彼女自慢したっていうか、好きなものとか事とか何か言えって言われたから、菅野さんのこと話しただけだから。」
「いやそこは普通食べ物とか趣味とかでしょ。」
「俺の趣味は菅野さんだから。
それより早くやってくれる?今この瞬間も俺と菅野さんの時間は奪われてる。」
「先輩、ゆっくりでいいですよ?
私は明日も来ますし。」
「一分一秒でも大事にしたいんです。」
こんな調子なのにちゃんと人望厚いのすごいなぁ。