推し一筋なので彼氏はいりません
別の日。
今日も先輩の家に来ている。
黙々と勉強をする私に、先輩は特に何も言わなくても紅茶をいれてくれる。
私がコーヒーより紅茶の方が好きだと言ってからは、自分は紅茶は飲まないのにわざわざ家に常備してくれているようだった。
紅茶の入ったカップをそっとテーブルに置いて、私の勉強を邪魔しないよう隣で静かに本を読み始める。
「先輩。」
「ん?」
そして私が声をかければ、本から顔を上げて話を聞いてくれる。
「ちょっとわからないとこがあって、教えてくれませんか。」
「もちろん。どこですか?」
「ここなんですけど……」
「それなら───」
「ありがとうございます。」
聞き終わったらまた無言で勉強。先輩は読書の続き。
シャーペンを走らせる音と、ページをめくる音だけが部屋に響く。
「休憩しませんか。
今日はフルーツタルト買ってますよ。」
2時間くらいして先輩が声をかけてくれて、フルーツタルトを食べたい私はしっかり休憩タイムに入る。
声をかけるだけでは私がずるずる勉強を続けてしまうことを知ってから、最近は何かしら甘いものと共に休憩を促してくれるようになった。
「じゃあちょっとだけ。」
先輩はそれを聞いて、いつの間にか空っぽになっていたカップをさげて、新しく紅茶いれてくれる。
「休憩の間だけ菅野さんに触っていいですか。」
「…どうぞ。」
何をされるのかと思えば、私が座って食べてる後ろに来て、そっと抱きしめられる。
結構スキンシップの多い人だとわかってきたため、そんなに驚くこともなく、私はそのまま食べすすめる。
「もうちょっと休憩します。」
食べ終わった私は、そう言って振り返り、抱きしめ返してみた。
「はい。」
顔は見えてないけど多分満面の笑みなんだろう。声が嬉しそうだからよくわかる。
先輩は特に何を話すでもなく、優しく頭を撫でてくれる。
私はそれが心地良くて、そのまま寝てしまった。
「……すみません。気づいたら寝てしまってました。」
「いいんですよ。最近お疲れですもんね。
頑張るのはいいと思いますが、無理しすぎないでくださいね。」
「ありがとうございます。
でも、先輩通ってる大学受かりたいと思ったら、しっかり勉強しておかないと不安で。」
「あの、菅野さん。」
「なんですか、改まって。」
「大学受かったら一緒に住みませんか。」
「え?」
「前も話しましたけど、本気でこの話進めたいから、ちゃんと話そうと思って。
帰るのを見送る度に、ずっとここに居てくれたらいいのにって思ってたんです。
もちろん、菅野さん自身が一緒に住みたいと思ってくれて、ご両親と相談して許可が下りたらでいいんですけど。」
確かに、起きてすぐに先輩がいて、寝る時も先輩が居る生活は憧れる。
「……近々親に聞いてみます。」
「ありがとうございます!」
ママは即OKしてくれそうだなぁ。
「さすがにそろそろ勉強再開しますね。」
「はい。」