推し一筋なので彼氏はいりません



先輩は私の頭を撫でるとそっと離れていって、また隣で静かに本を読み始めた。

本に視線を落としている先輩の横顔は、いつものニコニコと違って、真剣な顔をしててカッコいい。


「ん?」


私の視線に気づいて、私の方を見る。

先輩と目が合って、考えていたことがバレる気がして、慌てて視線を逸らす。


「なんでもないです。」


「いつでも声掛けてくださいね。」


「はい。」


私と話す時の先輩の雰囲気が好きだ。

普段から優しい雰囲気は漂っているし、雰囲気だけじゃなく実際に優しい。

けど私の前でだけふわふわ感が増すというか、もう大好きですって言うのが雰囲気だけで伝わってきそうになる。

声に甘さが加わって、表情に柔らかさが増す。


「あー、ダメだ。」


「どこか分からないところでも?」


「いえ、先輩のせいで集中できないんです。」


「俺がいると気が散りますか?
ちょっとその辺ぶらぶらしてきましょうか。」


自分の家なのに普通にこういう提案してくる優しさも好き。


「違います。」


「もし俺が無意識に気にさわるようなことをしたのであればすみません。」


「……違くて……。」


先輩はいつの間にか本を置いて、私の方を心配そうにじっと見つめてくる。


「……なんか、なんとなく、ふと思っただけなんですけど、いつもは特にそんなこと考えたりしないんですけど。」


「はい。」


「先輩のこと……好き、だな、って思ってしまって……。
1回考えるといろいろと気になって集中出来ないというか……。」


先輩は驚いた顔でかたまっている。

それもそうだ。普段私から好きっていうことはほとんど、というか、全然ない。


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