推し一筋なので彼氏はいりません
推し活とふたり
とある日のふたり
「菅野さん、誕生日のことなんですけど、」
「はい。」
「そろそろ遊園地のチケットを取ろうと思ってて、日程は来週の日曜でいいですか?」
「え?でも先輩の誕生日は土曜日じゃ……。」
「あれ、だってその日あのアニメのイベントありますよね?」
「そうですけど……。」
私は何も言ってないのになんで知ってるんだろ。
「え、俺もしかしてまずいこと言いました?
チケット外れたとか……?
あ、それとも今回は行く気なかったとか?」
「いえ。チケットは当たってるし、行きたいとは思ってました。」
外れる可能性もあるし、と思って応募したけど幸か不幸か当選。
でもその日は先輩の誕生日だから、行こうか悩んでいたところだった。
「よかった。
けどイベントの次の日だと疲れますかね?次の週にします?」
「いえ、日曜日で大丈夫です。
いろいろ考えてくれて、ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
当たり前のように私の推しの情報をしっかり入手していて、しかもそれ優先させてくれて、優しいし心が広すぎる。
「爪も遥斗さんカラーに塗るんですよね?俺がしてもいいですか?」
「はい。」
「そうだ。この前遥斗さんカラーっぽい色を見かけて買ってみたんですが、どうですか?」
「いいですね!私が持ってるのよりその色の方がいいかも。」
「よかった。
あ、当日の髪も任せてくださいね。
花純にやり方聞いて練習してますし、もちろん遥斗さんカラーのリボンは入手してます。」
「準備いいですね。」
あまりにも準備が良すぎて、もはや私より推し活に本気なのでは?って気がしてくる。
「俺の推しは菅野さんだし、推しを推してる菅野さんも最高に可愛くて推せるので、推しの推し事は全力で応援していく所存です。」
「ありがとうございます。そういうところ好きです。」
「不意に笑顔で好きって言うのは供給過多ですね。あー、可愛い。」
「…先輩って付き合ってからやばさ増しましたよね。」
「推しに対してはみんなこんなものだと聞いてます。」
「一応彼女でもありますよ。」
「一応どころかもちろん彼女だと思ってますよ。そして推しでもあります。」
「あ、はい。」
もう言うのやめよう。
先輩が変なのは最初からだし、先輩がより変になったのは私が推し活をさらけ出しているせいな気もしてきたし。
「そうだ。イベント誰かと一緒に行きます?」
「いえ、ひとりですが。」
「じゃあ送り迎えさせてください。」
「そんなに遠くないしひとりで行けますよ?」
「帰る頃は真っ暗な時間帯だし、菅野さんはとても可愛いので、さすがにひとりは危ないです。」
「…わかりました。
それより先輩、手が進んでないですよ。」
「あぁ、そうだった。レポートが。」
「…私、先輩が恋人で良かったです。」
パソコンに向き直る先輩の背中に、聞こえるかどうかくらいの声量で呟いた。
「え、なんですか、急に。」
先輩は驚いたように、でも嬉しそうに振り返る。
「こんなに私の事を尊重してくれる人他にいないだろうなと思って。」
「じゃあもし俺と似たような人が現れたら、俺じゃなくても良くなりますか?」
「先輩みたいに、推しに理解あって、私のこと大好きで、それ故にたまにしつこくて、ちょっと変人で、私に勉強教えてくれて、運動もできて、顔面偏差値も高い人間が他にもいますかね。」
「そこはいると仮定して答えてくださいよ〜。」
「じゃあいると仮定して、先輩がいるのに先輩と似た人を選ぶメリットがありますか?」
「そうですけどー、」
「先輩が2年近くもの間しつこく私に伝えてきた気持ちも、そのしつこさにまけて私が先輩を想ってきた気持ちも、先輩に似てるってだけで今更超えられる人なんかいませんよ。」
「じゃあもし俺より先にその人に出会ってたら?」
「それはそっちの人を好きになったかもしれませんね。
というか、このたられば話楽しいですか?タイムマシンでもない限り、ありえない話ですよ?」
「タイムマシンが出来るかもしれませんよ。」
「もしタイムマシンができたら、もっと早く遥斗くんのことを語れるように、早く私に出会いに来てください。」
「任せてください!」
「それよりも早くレポート終わらせてください。
せっかく来たのに今のところ先輩の背中見てばっか。」
「あ、すみません、早く終わらせます。」