ムーンサルトに 恋をして
開演時と同じに会場の照明が一気に落ちた、その時。
ステージ奥から出て来た5人が音楽に乗りながら登場した。
4人にスポットライトが当たりながら、先日見たあの場所へと上がってゆく。
けれど、ジルだけはステージ上に残ったまま。
どうしたのだろう?と思った、次の瞬間。
頭上よりだいぶ高い位置にある落下防止用のネットの端を掴み、それを引き下げ、逆上がりでもするかのようにくるっとネットの上に。
「ジル様ぁぁぁ~~~!!」
「ジル~~~ッ!!」
観客席から向けられる声援。
ジルのファンの人たちらしい。
キャーキャーと黄色い声があちこちから聞こえて来る。
ジル、カッコよすぎるでしょ……。
ウォーミングアップとでもいうのだろうか?
練習時と同じように軽やかに数回行ったり来たりし始めた。
そして、ジルが片手を上げた、その時。
ぴたりと音響が止まり、静けさに包まれる。
スポットライトがメンバー1人1人に向けられ挨拶のように会釈する。
そして、ドキドキするような曲調の音楽がかかる。
本番のようだ。
両手をぎゅっと握り、手に汗掻きながら彼の無事を切に祈りながら……。
スイングする度に観客の視線が揺れ動き、バーからジャンプし、ジルがキャッチする度に歓声が沸き起こる。
演技はどんどんと大技へと向かっているようで、難易度が上がってゆく。
開始から10分ほど経った頃、ジルが両手を上げ拍手を促し始めた。
『Hi hi hi hi … Hi hi hi hi♪』
観客を巻き込んで鼓舞するかのように、両手を上げてバックオーライみたいにして自らハードルを上げる。
地上13メートル。
観客席の最後部に位置している場所からだと、ジルの姿は本当に小さく見える程度なんだけど、満面の笑みを浮かべているのが分かる。
白い歯が遠目でもキラリと輝いているから。