ムーンサルトに 恋をして

送信相手はジル。
誕生日プレゼントにカードを付けておいた。
その封筒の中に連絡先を記した名刺も添えて。
だから、彼からの連絡を待っていた。

プレゼントのお礼と待ち合わせに関してのメッセージ。
それを目にしただけで嬉しくなった。
バケツから溢れる水のように。

**

3日後、9時にモールの駐車場に彼を迎えに行く。
ハーフパンツにTシャツ、白いスニーカー姿のジルは、お客様用駐車場のFの看板の下に凭れるようにして立っていた。
彼の目の前に停車し、彼をピックアップする。

「おはよう」
「おはよ」

白いTシャツの襟部分には、私がプレゼントしたサングラスが掛けられている。

「ナナ、ありがと」
「どう致しまして」

彼の指先がサングラスをなぞる。
千葉から高速道路を使って片道1時間半ほど。
丸々1日使って観光すれば、日帰りで帰って来れる距離。
来る途中で買っておいたアイス珈琲を手渡し、運転に集中すると、横から彼の視線が。

「何?」
「デート?」
「……うん」

彼氏でなくてもデートはデートだよね?
私の返答が気に入ったのか、彼が喜んでいるのが横目で分かる。

彼がマンハッタンでしてくれた事に比べたら、全然足りないけど。
少しでも恩返しがしたくて。

先日の公演を観覧した話や普段の仕事のこととか、道中の車内で積もり積もった話をした。

**

「Wo~w!」

到着した先は、小田原。
コインパーキングに車を駐車して、彼と一緒に小田原城へと。
千葉県から天守閣がある城で観光も兼ねるとなると、かなり限定される。
本当は松本城まで連れて行ってあげたいけど、さすがに日帰りでは厳しい。

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