ムーンサルトに 恋をして
現存天守ではないけれど、小田原城なら天守閣まで登城することが出来るから、ジルにもピッタリだと思って。
それに、城下町の雰囲気が今なお残っていて、観光も十分楽しめる。
お堀を渡り、城内に入ると天守閣まではぐるりと一周する感じに歩かされる。
天守閣が見えているのに中々着かないものだから、ジルの興奮度が上がる一方。
気付いた時には手を握られていて、『早く早く』と手を引かれる。
天守閣のお膝元にある朱色の常盤橋。
それを渡ると常盤門があり、それをくぐった先に聳え立つ天守閣。
石段を登り、お金を支払って、彼と天守閣内を散策する。
終始テンションの高い彼をこっそり撮影しながら……。
天守閣から再び外に出た私は、来た道とは違う道で進んだ先にあるNINJA館へと彼を誘う。
ジルはそこでもテンションMAXで、夏休みの子供たちと同じように満面の笑みを浮かべた。
*
「ジル、ちょっと待ってね?」
小田原城を後にした私たちは、『小田原さんぽ』という、まち歩きアプリを使って観光することにした。
アプリで昼食が摂れそうな所を探していると、ジルがしきりに服を引っ張って来る。
「何?」
「ナナ」
「……え、あれ着たいの?」
「うん!」
「……しょうがないなぁ」
ジルの視線の先には、浴衣をレンタルしてくれるお店が。
店内に入ると、昼時だからなのか意外にも空いていて、直ぐに着付けてくれるという。
ジルと好きな浴衣を選んで、店の奥で着付けて貰う。
簡単にヘアセットまでして貰った私は、着付けが終わっているジルの元へと。
「どう?似合う?」
「カワイイ」
「可愛いっていう歳じゃないけどね……」
お世辞で言ってくれているのは分かっているけど、浴衣映えする顔立ちのようで、ジルと2人で並んで立っていると、観光客の人たちがモデルだと勘違いして撮影している。