ムーンサルトに 恋をして
「今日から我が社のマーケティングを担当する本部長の岸野君だ」
「おはようございます。岸野です。どうぞ宜しくお願いします。Good morning everyone. I'm Nanami Kishino,thank you.」
日本人らしく、深々とお辞儀をして…。
その場にいるスタッフが歓迎の拍手をしてくれた。
その後は、各部署からの連絡が伝達され、10分ほどの朝のミーティングが終了した。
私の勤務形態は特例扱いで、本来なら本社勤務なのだが、マーケティングは現場命だと前の会社で仕込まれているのもあって、面接の際に自由出勤扱いにして貰った。
だからこそ、数字で結果を出さなければならない。
ミーティングが終わり、スタッフがそれぞれの場所へと散ってゆく。
新スタッフということもあり、握手を求めるスタッフがいたり、肩をポンポンと叩いてエールを送ってくれる人もいる。
そんな彼らに軽く会釈していると、おもむろに手をがしっと掴まれ、他のスタッフの視線も気にせず歩き出す人物が1人。
『Nursing room』と書かれた部屋へと連れ込まれ、鍵がカチャッと掛けられた。
「ナナ」
「ん?」
「どういうこと?」
「来ちゃった♪エヘヘッ」
目の前にいるのは、私の愛しい人。
彼が驚くのも無理はない。
前の会社を辞めたことも、サーカス団を運営する会社に就職したことも、今日ここへ来ることも内緒にしていたのだから。