ムーンサルトに 恋をして
ぐるりと一周したバスは再びタイムズスクエアへと。
バスを降りて、ゆっくりと歩きながら巨大広告を眺める。
夜は車通りが少なく、意外にも快適に散策を楽しむことが出来るようだ。
けれど……。
すれ違う恋人同士が目に入る度に心に針が突き刺さるようで。
私が浮気したわけでもないのに、なぜこんなにも辛い想いをしなければならないのか…。
思い出したくもないのに、気付くと頬に涙が伝っている。
キャップを深く被り、ミリタリージャケットの襟を立てて、人目を避けるように俯き加減で歩き続ける。
当てがあるわけでもなく、ただただ歩き続けて……。
お洒落なカフェでホットカフェオレを購入し、それを飲みながらセントラルパークまで辿り着いた。
公園のベンチに腰掛け、ジョギングする人々を眺めながら茫然自失としていると、視界の隅で何やら人々が手を叩いているのが見える。
そこへ視線を向けると、芝生の上で軽やかにバク転を決める男性が1人。
観光客らがその男性を取り囲み、感嘆の拍手をしている。
思わずその場へ足が向いていた。
さらりとしたブロンドの髪に白い肌。
スッと通った鼻梁にキュッと持ち上がった薄い唇。
スラリとした長身なのに、華奢には見えない。
まだ肌寒い3月下旬。
上着は脱いでいるものの厚手のセーターを着ているのに、彼の動きから容易に想像がつくほど、彼の身体能力の高さが伺える。
セーター越しでも分かる逆三角形の上半身は、鍛え抜かれた筋肉美であることが証明されたようなもの。
バク宙、バク転を繰り返しながら、何回転捻ったのかも分からないくらいスピード感もあって。
そんな彼を涙を拭うことすら忘れて見惚れていた。