青くてまるい惑星の。

ちょうちょ。



最近、ぼくを悩ますもの、それは。


ひらり。


頭によぎる、いつかの記憶。




真っ青の青よりももっともっと深い空の色。

太陽の光を、踊るように跳ね返すエメラルドグリーンの海。




それは、いつの事だったか。




ひらり。


匂いたつように生い茂る緑に。

熱く乾燥した風をふわりと受ける赤い花。




ずっと昔の事だったか。

それとも、夢に見たのか。

頭に焼き付いて離れない光景。

それは、気まぐれにぼくの思考に入り込む。


朝ごはんを食べる時や、仕事中にパソコンを打っている時。

歯磨き中だったり、コンタクトを外す時。


ひらり、とまるでちょうちょの様に飛んでいく。

記憶の端を捕えようとしたら、するりと抜ける。

最近、ぼくは考え込んでしまう。


(困った)


この間なんかコンビニでお弁当を買おうとした時にやってきて、···ちょうど、大盛り塩焼きそばか、5種類のきのこのカルボナーラ(温玉付)かで迷っていた時だったので、さらに都合が悪く、しまいにはアルバイトの大学生に嫌な顔をされてしまった。


(本当に困った)


仕事にはなんとか支障はないけれど、会社の女の子に寝癖を指摘されたり、お気に入りのシャツにカレーうどんのシミをつけてしまったりと散々である。


(なんとか)

(なにかわかるといいんだけど)


もう何日もぼくは、考え込んで。

今朝もいつもの様に起きて、朝ごはんを食べ、ヒゲを剃っていると。


ひらり。


滑らかな、びろうどのような小麦色の肌に、漆黒の瞳。

ピンク色の唇が、動く。



(そうか、僕は)



厚く垂れこめた雲間から射す神々しい光のように、

セピア色の世界が、カラーフィルムになるように、気づく。



(行かなければ、)


ことり、シェーバーを置いた。







「待ってるから」
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