覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)
 


 こんな自制心のないことでいいのだろうか。

 夜。
 結局、衣茉から聞き出したパスワードでスマホのゲームをやりながら、八尋はひとり落ち込む。

 祝も心配してたな。

 そんな話を朝、通勤途中の道で出会った吉行にすると、

「衣茉ちゃんに対しては、二人きりになってもなにもしないくらい自制心が効くのに、ゲームには効かないんだ~」
と言って、あはは、と笑う。

 ……後ろに祝がいるんだが。

 っていうか、まるで、俺が祝よりゲームを愛しているように聞こえるんだが。

 そう不安に思っていると、少し遅れて衣茉と後ろを歩いてくる玖村が、衣茉に言っているのが聞こえてきた。

「八尋は祝さんより、ゲームに夢中みたいだよ。

 大丈夫。
 僕なら、君の方に自制心が効かないよ」

「……そんな人は祝と並んで歩かないでください」
と八尋は衣茉の腕をつかむと、自分の側に引き寄せる。
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