覆面作家と恋せぬ課長(おまけ 完結しました)
 


 駅に8時半集合にしたので、きっと、課長は来ないだろうな、と衣茉は思っていた。

 そんな早朝に実家の用事が終わるわけもないし。

 だが、駅の改札口に八尋は立っていた。

 ちょっと登山風の格好で。

「課長、実家のご用事は済まれたんですか?」

「職場の女子社員の用事に付き合うと言ったら、何故か、こっちはいいから行けと言われた」

 何故かもなにもない。

 八尋の家族は、朴念仁(ぼくねんじん)の長男の周りにようやく女性の影を感じたので、なにを置いても行け、と言ったのだが。

 どちらもそのことに気づいてはいなかった。

「お前が誰か代わりに連れて飛び降りても困るしな」

「飛び降りないですよ。
 下を覗くだけです。

 で、課長。
 その微妙に登山風の靴とかリュックはなんなんですか」
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