完璧生徒会長はとろける甘さの恋を描きたい
【第6章】
○5話から引き続き、リビング
○テーブルで二人、それぞれのiPadで作業

晴陽「そうそう、意外とうまいじゃん」
<隣で大きめのiPadに描きながら、千和の様子を見て褒めてくれる>
<大きな眼鏡をかけている>

千和「『意外と』は余計じゃないですか?」
<iPadで漫画のベタを塗りながら、ちょっと膨れて晴陽を見る>

晴陽「なんだよ、褒めてるのに」
<くすっと笑う>

千和「それはありがとうございます」
<一応笑って、お礼を言う>

晴陽「ちゃんとバイト代も払うからさ」
<和やかな会話>

千和「別にいいですよ。ブラウニーごちそうしてもらいましたし」

晴陽「謙虚なやつだな」

○作業中

千和(でもこれ、意外と面白いかも)
<楽しんで作業している>

千和(『きみここ』の進展まで知れちゃって、ファンとしては嬉しいし!)
<キャッ、という顔>

千和(作業だって、塗ってくだけだしね)

千和(……塗ってく?)
<ふと、なにか頭によぎる>

千和(そういえば……小学生のとき、絵画教室で同じようなこと、したような……)

晴陽「次、ここベタ頼んでいい?」
<晴陽が不意に声をかけてきた>

千和「あ、はい! ……そうだ。晴陽って」
<顔を上げて返事、そのあと思いついたように>

晴陽「なんだよ」

千和「なんで漫画家とかやってるんですか? 生徒会長なのに」
<ずっと疑問だったことを聞く>

晴陽「逆だな。漫画をうまく描きたいから生徒会長になった」
<iPadに向き合い、描きながら>

千和「どうしてですか? 忙しいじゃないですか」
<首をかしげる>

晴陽「確かにそうだが、生徒会だといろんな生徒と関わるだろ」

千和「そうですね」

晴陽「つまり人間観察ができる。人付き合いも、恋愛なんかも」

千和「なるほど……」

晴陽「だから俺が本当にやりたいのは漫画を極めることなんだよ」
<iPadに向き合い、真剣な顔>

千和「へぇ……立派なんですね」
<感心>

晴陽「そ、そう? 今は忙しいから『きみここ』しか描けてないけど」
<千和を振り向き、ちょっと照れた、かわいい顔>

千和「!」
<晴陽の表情にきゅんとした>

晴陽「本当はさ、もっとたくさん……あ、そうだ」
<続けかけて、気付いた顔>

千和「なんですか?」
<普通の表情に戻って、返事をする>

晴陽「ここ、別のトーンにしてほしいんだよ」
<腰を上げて、近付いてきながら>

千和「わかりました!」

晴陽「えっとな、ここのフォルダに入ってるから……」
<身を乗り出して、千和のiPadをペンで指しながら>

千和「わ……」
<ふわっといい香りが香る>

千和(な、なんかいい香り……)
<どきどきしている>

千和(今までは、急すぎてどきどきして気付かなかったけど)

千和(シトラスみたいな、爽やかな……)
<ちょっとうっとりしてしまう>

晴陽「千和?」
<不審そうに>

千和「ひゃ! あ、はい!」
<どきっとして、我に返った>

晴陽「聞いてた?」
<ジト目>

千和「は、はい! もちろん」
<作り笑い>

晴陽「上の空って顔してたのに……、いいか、こっちの……」

○ピンポーン(インターホン)

晴陽「あ、来たかな」
<立ち上がる>

千和「お客さんですか?」
<見上げて、不思議そう>

晴陽「ああ。悪いな、今日しか空きがなかったんだ」
<リビングドア横に向かいながら、すまなさそう>

千和「私はかまわないですけど」

晴陽「そりゃありがと。はーい」
<リビングにあるインターホン(応答用)に向き合う>

<晴陽、インターホン越しに対応している>

千和(ちょっと見直しちゃったかも)
<ベタの続きに戻って、感心している>

千和(本当に真剣に取り組んでるんだ)

千和(しかもあんな顔で笑うんだ……)
<ちょっときゅんとした顔>

○ガチャ(玄関ドアが開く音)

晴陽「いらっしゃいませ。すみません、来客中なんですけど、どうぞ上がって……」
<晴陽が玄関で対応している声がかすかに聞こえる>

千和(誰だろう?)
<聞こえてくるのを聞きながら、不思議に思う>

千和(お父さんやお母さんじゃないよね。友達?)

若葉(わかば)が入ってくる

晴陽「さ、今お茶を淹れますね」
<エスコートするように若葉を室内へ招く>

若葉「いいえ、おかまいなく。……あら。お客さんって女の子だったの?」
<にこやかに入ってきた若葉、千和を見て意外そうな顔>
<いかにもキャリアウーマンのような服、大きなビジネスバッグを掛けている>

千和「あ……、は、はじめまして」
<慌てて立ち上がり、挨拶>

千和(女のひと?)
<不思議に思う>

千和(でも晴陽独り暮らしのところに来るなんて……?)

晴陽「ああ。俺の彼女なんですよ」
<千和を示して、さらりと>

若葉「あら! はるくんにもついに彼女ができたのね!」
<両手を合わせて、ぱっと顔が明るくなる>

千和(はるくん!?)
<驚く>

晴陽「ええ。つい先日からですけどね」
<照れたように>

若葉「なによ、言ってくれたら良かったのに~」
<からかうように>

晴陽「気恥ずかしいですよ」
<親しそうに笑っている>

若葉「なに言ってるの! 大切なはるくんのことなのに」
<近い距離で、親しそうに>

千和(大切!?)
<ざわっとする>

晴陽「もう、からかわないでください。改めて……こいつ、千和っていいます。俺の一個下です」
<苦笑して、若葉から離れる>
<千和を示し、紹介>

千和「あ、降矢 千和です!」
<ぺこっとお辞儀をする>

若葉「千和ちゃんっていうのね。よろしく」
<にこやか>

晴陽「そんで、この方は若葉さん。俺の担当編集さん」
<若葉を示して>

若葉「木瀬(きせ) 若葉です。はるくんのデビューから見守らせていただいてます」
<丁寧にお辞儀>

千和「そうなんですね。な、長いお付き合いなんですね」
<理解して、ほっとした>

千和(な、なんだぁ、担当さんかぁ)
<内心、安堵>
<でも『長い付き合い』という点にはちょっとざわついた>

千和(そりゃあそうだよね。漫画家なんだもんね)

晴陽「悪いな、千和。これから打ち合わせだから……」
<すまなさそうに切り出す>

千和「そうですよね! 私、少し出てましょうか」
<気を使おうとする>

晴陽「いや、それは申し訳ないから、俺の部屋で打ち合わせるよ」
<千和を制止して>

千和(え……、晴陽の部屋で?)
<ぎくっとする>

千和(二人きり……で?)

千和「う、うん。晴陽がいいなら」
<愛想笑いをして答える>

晴陽「待たせて悪いけど、一時間くらいかかるかも。じゃ、若葉さん、よろしく」
<すまなさそうな顔を千和に向けてから、若葉を促す>

若葉「ええ。行きましょうか」
<微笑でついていく>

千和「……頑張ってくださいね」
<力ない声で、二人を送り出す>

○リビングに一人

千和「……」
<しばらくドアのほうを見て、立ち尽くしていた>

千和「続き、やろうかな」
<席に戻る>

○座って作業

千和(担当編集さんかぁ……)
<ベタをしながら考えている>

千和(20代だよね? 綺麗なひとだった)

千和(私と付き合ってって言ったくらいだから、晴陽の恋人なわけはないけど)

千和(でも……)
<もやもやしてしまう>

千和(部屋に二人きりって……)

千和(さっきの香りとか感じられるんだよね)

千和(ううん、部屋だからもっと強く香るのかも……)

千和(……)
<煮詰まってくる>

千和(うう、なんだろ、もやもやする……)
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