こじらせイケメン葉澄くんの愛が重い!
○潤の家。学校から帰ってきた潤は料理中の母の言葉に固まった。
潤「転勤?」
母「そうなの。ここにいられるのは三月までね」
慣れている母は「やれやれ」と言った様子だが、潤はショックを受けてしまう。
潤「は、早くない……? 次どこ行くの?」
母「北海道支社に戻るんですって」
潤「北海道」
母「そう。でも、北海道には数年いる予定らしいから、ちょっとは落ち着けるようになるわよ」
冬服を買い足しておかなきゃねぇ~な母。
潤も動揺しつつも同意した。
潤「……そ、そっか。落ち着けるなら良かったね」
母「潤もあっちこっち付き合わされて大変だったでしょ? ま、まだあと半年はあるから」
潤「うん」
母の前では笑って、自分の部屋へ向かう。
潤(早かったな)
潤(たった一年で引っ越しかぁ……。慣れてるけど……)
来月には修学旅行を控えており、自室の机やベッドサイドには「修学旅行のしおり」、付箋でページチェック済の「京都のガイドブック」などが置いてある。
ちひろや彩香、葉澄と一緒に修学旅行に行くのを楽しみにしていた。
潤「引っ越したくないな……」
葉澄や友人たち、クラスメイトの顔が浮かぶ潤。
潤(せっかく仲良くなったのに離れ離れになるなんて)
潤(いや、ずっとここにいられるわけじゃないってわかってたけど)
ちひろや彩香たちと三人で笑い合っていることを思い出す。
それから、葉澄の顔が浮かぶ。
教室でのやりとりやドキドキするようなキス、デート……走馬灯のように流れてきて、潤の胸がぎゅっと締め付けられる。
ぴこん、とSNSの通知音。
潤「わ」
ふいに送られてきたのは葉澄からの通知だった。
慌てて開くと、サングラス姿の葉澄の自撮りだった。撮影か何かの休憩中らしい。
葉澄『似合う?』
潤『(似合ってるよ!な明るい感じのスタンプ)』
葉澄『明日は遅刻していくけど』
葉澄『放課後は何もないから一緒に帰らない?』
『うん!』と送りかけた潤だが手が止まる。
潤(葉澄くんになんて言おう?)
潤(引っ越すって言ったら、悲しむかな……でも……)
ぼうっとしながらこれまでの恋を思い出す潤。
ほとんどが自然消滅だったり、引っ越し後に『やっぱり別れよう』とメッセージが来たり。
葉澄の心も離れていってしまうのではないかと考えてしまう。
潤(葉澄くんは忙しいし、これから人気もどんどん出る)
潤(わたしがいなくたって……)
打ってあった『うん!』を消す。
返事がないことを不審に思ったらしい葉澄が『もし予定があったら気にしないで』と気を遣った返事を送ってきてくれた。
距離を置いていった方がダメージは少ないんじゃないか。
そう考えた潤は『ごめん、明日は家の用事があって』と打ちかけ、すぐに消して、
潤『会いたい』
と送ってしまった。
すぐに既読が付く。
葉澄『今から会う?』
ハッとする潤。
潤「わ、わたしったら、何送っちゃったんだろう。『ごめん、気にしないで』、えーっと、『明日学校でって意味で』」
わたわたしているうちに、先に葉澄からのメッセージが届いてしまった。
葉澄『遅くなるかもしれないけど、待ってて』
その後に、潤の『ごめん、気にしないで。明日学校でって意味で』が送信されるが、既読が付かない。
どうやら葉澄の休憩時間が終わった様子。
潤「ど、どうしよ……」
ひとまず、『さっきのは気にしないで。明日学校で会おう』と送っておいた。