乙女は今日も夢を見る

再度小さくため息をこぼし、ベンチの背もたれにもたれかかる。

サァッと、涼しい風が頬をなでた。

もうちょっとしたらここも熱くなってきていれなくなるだろうな…。

夏の間はどうしよう、図書室にでも通う?

そんなことを考えながらゆっくりと目をつぶった時、ふと、怪我をした私を励ましてくれた若い男性のことを思い出す。

実は、私が意識を失った後も彼にはかなりお世話になったようで…。

『いや〜、たぶん君と同い年くらいだと思うけどね。かなりしっかり状況説明もしてくれて助かったよ』 

と、救急隊の人もえらく褒めていた。

…結局、お礼を言えなかった。

そのことだけが少し心残り。

お母さんに聞いても。

『私が来た時にはもういなくてね。私もお礼を言いたかったんだけど』

と、残念そうに言うばかりで、どこの誰かはわからなかったんだ。
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