乙女は今日も夢を見る
苦虫を噛み潰したような表情で如月さんは言葉をつむぐ。
「気づいた時には、車が迫ってて私の距離からじゃ到底間に合わなかったの。でも、高梨さんが…虎太郎を庇って助けてくれて…」
如月さんの瞳が少し潤んだように見えて私は小さく息を呑んだ。
「如月さん…」
「てか、普通できないよ?しかも知らない子のために自分の身をかえりみずって…私はたぶん高梨さんのようにはできなかったと思う」
「本当にありがとう」最後にそう付け加えた彼女は満面の笑みを浮かべていて、私も自然と頬が緩む。
あの時、無我夢中だったけどちゃんと虎太郎くんを助けることができて本当に良かったと改めて感じた瞬間だった。
そして、私のことを助けてくれた…、
そこまで考えて私はハッとして如月さんを見つめる。
「ね、ねぇ…如月さん、あの場にいたってことは…もしかして救急車を呼んでくれてた男の人、見なかった?」
周りがケガをした私に戸惑っている中、冷静に救急車を呼んでくれた男の子。
救急隊の人から同じ学校だと聞いて、お礼を言いたくてそれとなく探してみたけれど結局、見つからなかった彼のこと。
もしかしたら、現場にいた如月さんなら何か知ってるんじゃないかと、そんな淡い期待が膨らむ。