乙女は今日も夢を見る
「…あ、えと。ゴメンね…。私もあの時のことあんまり覚えてなくて…」
そう答えた如月さんは、申し訳なさそうに顔を伏せた。
そうだよね…。だいぶ、前のことだもん。私だってもう声もあんまり覚えてないし…。
「ううん。だいぶ前のことだし、覚えてなくて当たり前だよ。教えてくれてありがとね」
「力になれなくてゴメン。でも、今日は高梨さん…ううん、悠理ちゃんとこんなにしっかり話せて良かった。私もずっとこの話、しなきゃって思ってたから」
“悠理ちゃん”と、名前で呼んでくれた彼女に私は心が温かくなる。
「話してくれてありがとう、唯南ちゃん。さてと、咲人が待ってるから私そろそろ行くね!明日は一緒に文化祭回ろう」
「そうね、楽しみにしてる」
お互いに「また後で」と声をかけ合う。
私は機嫌よく、唯南ちゃんに手を振りながらその場を後にしたのだった――。
――私が去った後の教室内。
「観月、悪いけど私からは言わないからね。…まだあの日のこと、許せないのよ」
ギュッと小さく拳を握りしめ、ポツリとこぼれた唯南ちゃんの言葉は、誰もいない教室内に消えていった。