捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 突然のことに対処が追いつかない。
 私の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされて、ピシリと固まってしまった。振りほどこうにも、竜人の腕力に敵うわけがなくされるがままだ。

「はああああ! なんて可憐で可愛らしいっ! ツヤッツヤの髪は細くて柔らかいし、神秘的な深い緑の瞳が奥ゆかしくて見惚れてしまうねっ!!」
「えっ、あの……」
「うわああああっ! 声まで透明感があって落ち着いていて心に染み込むとか、ヤバすぎる!!」
「は? いやいや」
「これこそ究極の癒しっ!!!!」

 さらにギュウウッと本気で息苦しいくらい締め上げられる。
 お気持ちはわかりましたと伝えたいのに、ハクハクとしているだけで声が出てこない。


「俺の番を離せ」


 地を這うようなアレスの声とともに私を締め上げていた圧迫感が消えていく。

 どうやら転移魔法で私の背後に飛んできたようだ。アレスは私の背後から腕を伸ばして、お客様の頭部をアイアンクローで締め上げていた。その光景にギョッとする。

「いだっ! いだだだだっ! わかったってば! 離したからっ! もうっ、本当に馬鹿力だな!」
「俺より強いくせに何言ってんだ。それよりもあんなに力一杯抱きしめたらお嬢様が苦しいだろうが! ていうか俺の番に勝手に触るな」

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