捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 そう言って砂時計をひっくり返す。
 そのままきつく抱きしめられて、悲鳴を上げなかった私を褒めてほしい。思いっきり私の匂いを嗅ぐアレスの鼻先が私の首筋を掠めた。

「ひぅっ」
「はあ、この匂い。堪らないな。優しくて甘い」

 今度は完全に固まって動けない私の耳元に唇をあてて、艶のある低い声でそっと囁く。耳にかかる吐息にビクッと震えれば、アレスは「ふふっ」と笑った。

「お嬢様。どんな感じですか?」
「ど、どんなって!?」
「くすぐったいですか? それとも、ゾクゾクしますか?」

 なおもアレスの唇は私の耳に触れていて、その刺激がダイレクトに脳に響いてくるようだった。たまらず背中を反らせてしまう。

「んっ、ゾ……ゾワゾワよっ!」
「へえ……なるほど。では、これはどうですか?」
「ひゃあっ」

 アレスの柔らかい唇が、私の耳を優しく挟んでいる。その中に感じる熱く湿ったものはアレスの舌。音を立てて私の耳を懐柔してゆき、耳たぶを甘噛みする。
 身体の奥から込み上げる感覚に戸惑い、それに逆らえない自分に狼狽えた。

「ア、アレスッ!」
「おや、タイムリミットですね。五分経ちました」

 あっさりと私を解放していつものようにすまし顔で佇んでいる。
 ……鼻歌まじりでえらくご機嫌な様子ではあるが。

 頭の先から爪先まで真っ赤になっていた私は、アレスを追い出してしばらく研究室に閉じこもって魔道具の開発に没頭した。
< 117 / 239 >

この作品をシェア

pagetop