捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
「違う。お嬢様は贅沢が好きなわけでなくて、心を込めて用意したものを喜ぶんだ。まあ、俺の敵にもならないな」
「そうだよねえ、アレスの重い愛には敵わないよねえ」
「父上だって大概だろ」
「うん、そうだよ。サラがいないならこんな世界は不要だね」

 ハッキリと言い切った父上に同感だ。ただ、あの激情に呑まれてしまったのに、どうやって正気に戻れたのか気になったので聞いてみた。

「父上はよく暴走したのに正気に戻れたな」
「あー、ここだけの話だけど」

 父上は少し気まずそうに言葉を切った。

「サラに泣かれたんだ」
「え……母上が!?」

 時と場合によっては竜人最強の父上よりも強くて豪胆な母上が泣いたとか……想像できない。いや、ある意味それは衝撃的すぎて正気に戻るかもしれない。ましてやそれが番なら尚更だ。

「スピア帝国を荒野にしたあと『もう大丈夫だから』って泣きながら言われてね……本当にそれはもう一瞬で正気に戻って土下座したよね」
「そんなことがあったのか」
「サラが泣いたのは内緒だよ。そのあと『故郷が消えてしまったわね』って寂しそうな顔で荒野を見つめていたんだ。故郷を滅ぼされるというのは、きっとそれくらい悲しいことなんだ」
「わかった……ありがとう、父上」

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