捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
30話 艶やかに華ひらく
* * *
「お嬢様」
透き通った穏やかなテノールボイスが私の鼓膜を震わせた。
漆黒の燕尾服をまとった専属執事は私を庇うように目の前に降り立つ。彼の腰から垂れているふたつに分かれた黒い布がふわりと揺れていた。
それが愛しい人だと理解した途端に私の心が凪いでゆく。
たとえ背後に広がるのが瓦礫の山でも、崩れ落ちそうな王城でも、アレスの背中はこんなにも頼もしい。
風になびく艶やかな濡羽色の黒髪は太陽の光を受けて、深い青に輝いていた。振り返る彼の夜空のような瞳は、灼けつくような熱を孕んでいて目を逸らせない。
「お嬢様、私の幸せは貴女の幸せです」
ええ、あなたはいつもそう言ってくれていた。
でも私は王太子殿下から離縁されるような女なのよ?
得意なことと言ったら魔道具の開発で、女らしいところなんてひとつもないのよ? そんな私が幸せになれるというの?
「私はお嬢様の願いを叶えるために存在するのです」
お願い、そんなことを言わないで。
せっかく抑え込んだ気持ちがあふれだしてしまうから。
「お嬢様」
透き通った穏やかなテノールボイスが私の鼓膜を震わせた。
漆黒の燕尾服をまとった専属執事は私を庇うように目の前に降り立つ。彼の腰から垂れているふたつに分かれた黒い布がふわりと揺れていた。
それが愛しい人だと理解した途端に私の心が凪いでゆく。
たとえ背後に広がるのが瓦礫の山でも、崩れ落ちそうな王城でも、アレスの背中はこんなにも頼もしい。
風になびく艶やかな濡羽色の黒髪は太陽の光を受けて、深い青に輝いていた。振り返る彼の夜空のような瞳は、灼けつくような熱を孕んでいて目を逸らせない。
「お嬢様、私の幸せは貴女の幸せです」
ええ、あなたはいつもそう言ってくれていた。
でも私は王太子殿下から離縁されるような女なのよ?
得意なことと言ったら魔道具の開発で、女らしいところなんてひとつもないのよ? そんな私が幸せになれるというの?
「私はお嬢様の願いを叶えるために存在するのです」
お願い、そんなことを言わないで。
せっかく抑え込んだ気持ちがあふれだしてしまうから。