捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
     * * *



 さらに二週間後。
 ラクテウスの街にある雑貨店の店先ではこんな会話が交わされていた。

「よお、クルガン! 魔道具の入荷はあったか?」
「あー、魔道具はしばらく無理だな」
「はあ? だってもう一ヶ月以上経つだろ?」
「いや、それがアレス様は蜜月を三ヶ月取るってよ」
「三ヶ月!? ずいぶん長いな! 普通は二週間くらいだろ? 長くても一ヶ月じゃないか」

 この竜人の言うことは正しい。通常、蜜月休暇は二週間から一ヶ月が妥当なところだ。

「いやそれがな、ロザリア様を落とすのに九年間も耐えたそうなんだ」
「またまた冗談だろ? ありえないって、そんな九年間とか……」
「……冗談じゃないんだよ、カイル様から聞いたんだ」
「ウソ……だろ?」

 番に対する想いや欲の深さを知る竜人たちは、それがどんな苦行なのか想像しただけで青くなる。それをこの国の王太子であるアレスは、九年間も暴走もせずに耐え切ってやっと自分の妻にしたのだ。

「だからな、魔道具はしばらく我慢してくれ。アレス様の九年間に比べたら屁みたいなもんだろう?」
「そう、だな。うん、そっか。それなら我慢するよ」
「悪いな、入荷したらすぐ知らせるよ」
「ああ、頼む。また来るよ」
「いつでも来いよ〜」

 こうして今日もラクテウスの街は平和な時間が過ぎていくのだった。
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