捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
6話 これからのこと
私の目の前で青い炎がゆらゆらと揺れている。
すべてを飲み込んできたこの十年間が終わりのときを告げようとしていた。
魔法誓約書は私がサインし終わると同時に空中に浮かび上がり発火して、制約が果たされた証として灰になっていく。欠片も残さずに燃え尽きると、私の肩にのしかかっていた重圧も一緒に消え去った。
私はこの瞬間王太子妃ではなくなった。
それなのに私の心は羽のように軽い。こんなにも負担に感じていたなんて一ミリも気づいていなかった。
魔法誓約書が灰になったという知らせは、すぐ各方面に伝わるだろう。その前の充分な根回しはウィルバート殿下がきっと済ませていると思うけど、もしできていなくても私にはもう関係のないことだ。
「それでは、今後この部屋はボニータが使うことになるだろうから、一刻も早く立ち去ってくれ。残った政務はボクが処理するからこちらに回せばいい。誓約書にある慰謝料については用意してあるから、すぐに使いを送る」
六年間も夫であった人からの最後の言葉は思いやりの欠片もないものだった。ボニータに惚れ込んでからは、さらに冷めた対応だったのを今更だけど思い出す。
「かしこまりました。すぐに支度して王城を去ります」
私の最後のカーテシーに振り向きさえせずに、ウィルバート殿下は執務室をあとにした。