捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 アレスは視線を上げオルゴールをカバンの中に入れてから、私の正面で忠誠を誓う騎士のように膝を折った。

「ロザリア様。私はあの時から生涯貴女様ただひとりにお仕えすると決めました。ご迷惑でないなら、これからもお傍に置いてくださいませんか?」

 予想外の返答と真摯に見つめてくる夜空の瞳に、すぐに答えることができなかった。
 だって私は何も持っていない。王太子妃でもなければ、伯爵家の娘であることも捨てようとしているのだ。

 慰謝料として結構な金額をもらえるが、これから先のことを考えるとアレスを雇い続けるのは難しい。

「アレス……貴方の気持ちは嬉しいわ。そんな風に思ってくれて本当にありがとう。でも私には給金を支払い続けるのが難しいの。魔法契約も解除するから自由にしていいのよ?」
「給金など必要ありません。ロザリア様の専属執事こそが私の天職なのです。貴女様のお傍を離れるなど考えられません。必要であれば私が稼いでまいりますし、契約解除も必要ありません」

 とんでもない申し出だ。どこの世界に主人のためにお金を稼ぐ執事がいるというのか。主人が対価を支払うから仕えてもらえるというのに。それともこの世にはそんな関係も存在するのかと一瞬だけ考える。

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