捨てられた妃 めでたく離縁が成立したので出ていったら、竜国の王太子からの溺愛が待っていました
 白い光が収まって目を開くと、眼下には雲海が広がり澄みわたる青空が視界いっぱいに飛び込んできた。まるで雲の上に浮かんでいるような錯覚に囚われる。
 頬をかすめていく風はほんの少し冷たくて、もうアステル王国から出てきたのだと身体で感じた。

 少し先には街を囲むように白い外壁がたてられていて、大きな門扉が何者も通すまいと固く閉ざされている。私たちは門の前の広場に移動してきたようだ。

「お嬢様、変わりはありませんか?」
「ええ、大丈夫よ。それでここが目的地なの?」

 外壁の下はそのまま断崖絶壁になっていて、山の頂上を切り取って街を作ったようだった。初めてみるアレスの故郷に胸が高なる。

「はい、ここが竜人の国ラクテウスです。国と言っても小国なのでお嬢様にしたら物足りないと思いますが、おおらかな奴らばかりなので気楽に過ごせると思います」

 ここがアレスの故郷。私のことを誰も知らない街。
 私を誰にも愛されない妃だと呼ぶ人がいない街だ。

「そう……まずは受け入れてくれるといいのだけど」
「それなら問題ないです。私がお連れしたのですから、みんな問答無用で受け入れてくれますよ」

 アレスの言葉に優しさを感じた。
 ほんの少しの希望と期待、それと拒絶されないかという不安を抱えて、初めて訪れる街へと足を踏み入れた。
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