幸せを受け止めて~騎士団長は月夜に淑女をさらう~
実家での日々が快適だと感じられたのは最初の2週間だけだった。
静養が1カ月も経つ頃には、
早く任務に復帰したいと思うようになっていた。

原因は母カサンドラである。
クララは顔立ちは母と似ているものの、性格は正反対である。
深窓のご令嬢として育った母は、典型的な貴族令嬢そのものだった。
貴族の娘は裁縫や楽器を嗜み、
身分の釣り合いの取れた将来有望な貴公子と結婚することこそが幸せだと
信じて疑わない人なのである。
だから、クララが実家に帰省している今がチャンスだと
しきりにお見合いを勧めてくる。

クララは小さい頃から兄や兄の友達とばかり遊んでいたからか、
家でじっとしていることが嫌いで、
母の理想の娘像からはかけ離れた娘に成長してしまった。
騎士団を目指したのも、母からのお見合い攻勢を避けるためでもあった。
(こんなよく知りもしない相手と結婚するなんて真っ平ごめんよ!)

自分はどんな人と結婚したいのか。
そんなことを漠然と考えるとき、浮かんでくるのはギュンター・フォン・ロートシルトのことだ。
浮いていた騎士団内でも、唯一公平に接してくれた人。
王妃の護衛騎士に推薦して、クララの居場所を作ってくれた。
今でもギュンターからは週に一度の頻度でお見舞いのカードが届く。
何か特別なことが書いてあるわけではないが、クララにとっては宝物だった。
(私、きっと団長のことが好きなんだ。)
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