幸せを受け止めて~騎士団長は月夜に淑女をさらう~
母たちのおしゃべりはそれからも続いていたが、
ギュンターは母に合格通知を手渡すことなく自室へと引き返していった。
両親が自分を跡取りにするために自分を養子に引き取ったことは
ギュンターも理解していた。
母に悪気はなかったのかもしれないが、
自分のことを投資商品扱いされたことがギュンターはショックだった。

それ以来、ギュンターはロートシルト伯爵夫妻とは
距離を取るようになってしまった。
決して親子関係が険悪になったわけではないが、
以前のような温かい親子の時間を過ごすことはなかった。
男子学院で専門的な勉強に励む一方で、
ギュンターは自分の将来に疑問を抱き始めていた。
ーーー自分はこのまま銀行家になって一生を終えるのだろうか?
両親の目論見通りの人生で終わるのは嫌だった。
何か全く違う道、自分の実力だけで身を立てられる道を歩んでみたい。

そんな風に人生に思い悩んでいたギュンターは
学院の掲示板に張り出されていた広告にふと目が留まる。
それは年に一度ある軍隊の入隊志願者を募る広告だった。
軍人という選択肢は今まで一度も考えたことがなかった。
ギュンターにとって軍隊は”勉強はできないが腕っぷしに自信のあるやつが行くところ”、
というイメージだったからだ。
しかし、今までのギュンターなら素通りするはずのこの広告が、
今はとても魅力的なものに思えた。
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