幸せを受け止めて~騎士団長は月夜に淑女をさらう~
ギュンターがリザと話をしていると、一人の女性が姿を見せる。
娘と話をしているギュンターの姿を見て、
その女性はわっと声をあげてギュンターに抱き着いた。
「ただいま、母さん。」
ギュンターも母の温かい背中を抱きしめ返す。
そういえばギュンターはこんな感じでロートシルトの母に甘えたことがなかった。
自分の母親はやはりこの女性だ。
「ギュンター。まぁ、本当にしばらくね。こんなに立派になって。上等なお洋服も着せてもらって、大事にしてもらっているのね。」

夕方になって父が仕事から帰り、
ギュンターは久しぶりに実の家族と一緒の時間を過ごした。
ギュンターの長兄と姉は既に結婚して家を出ていて、
現在は両親と次兄、妹のアメリアと末妹のリザの5人暮らしだそうだ。
ロートシルトの支援金を元手に始めた商売が軌道に乗り、
今では大きな家に引っ越して家族全員で幸せに暮らせているらしい。

ギュンターが父親に軍隊の推薦状にサインしてくれないかと切り出すと、
父親は快くOKしてくれた。
「私はお前に父親らしいことを何一つしてやれなかった。これくらいお安い御用だよ。」
父親のサインしてくれた推薦状を大事にカバンにしまうと、
リザがギュンターに飛びついてきた。
「お兄ちゃまは兵隊さんになるの?」
「そうだよ、リザを守る強い兵隊になるんだ。」
「素敵ね。」
ありのままの自分を受け入れてくれる家族の温かさに触れ、
ギュンターは満たされた気持ちで王都へと帰って行った。
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